歌詞の紹介

歌詞の紹介

《春は賑ふ》

《春は賑ふ》 本調子〔季 晩春(旧暦)〕

作詞者・作曲者不詳

〽春は賑ふ 隅田の景色 植ゑ込む松も 色増して 梅の香りの ほんのりと 婀娜な桜に 恋の淵 流れ流れし 水鳥の 今は私の 夫婦連れ

この曲は、作詞・作曲ともに不明ですが、『葉歌部類初編(歌澤家元直伝)』(明治五年、和泉屋市兵衛梓)に所収されていることから、万延期1860~1861)から明治五年(1872)までに作られたようです。また、曲名は《春賑(はるにぎ)》ともいいます。

愛情に満足りる二人の幸福感を、春賑わう墨堤(隅田川沿いにのびる三囲神社から木母寺あたり)が背景に唄ったものです。現在の隅田堤も、四代将軍家綱の頃から植えられてきた桜により、花見の名所として賑わいます。歌詞の中には、松・梅・桜が詠み込まれております。これには、『菅原伝授手習鑑』脇役、松王丸・梅王丸・桜丸の三つ子が想起されましょう。また花札六百間に、それらの札を用いた、大三小三という役名があるように、日本人に最も親しみある樹です。

カンの音域から入る 〽流れ流れし水鳥」とは、都鳥のことで、ユリカモメの白い鳥だといわれています。続く 〽今は私の夫婦連れ」は、その都鳥のつがいとかけられています。