歌詞の紹介

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《淡雪》

《淡雪》 本調子〔季 三春(旧暦)〕

作詞・作曲年/安政五年 節付/とく女

〽淡雪と 消ゆるこの身の 思ひ寝に 浮名を厭ふ 恋の仲 乱れし ままの 鬢付きや 義理といふ字は 是非もなく 夢かうつつか 朝がらす

うた澤の新曲としてできた曲で、節付は、うた澤節創設にかかわった一人である「とく女」です。なお、この年には、《薄墨》《初音きかせて》《花菖蒲》といった、今も唄い継がれている名曲が数多く作られました。

淡雪とは、ぼたん雪・綿雪とも言われる、春先に降る薄い雪のことです。前弾き(前奏)に、地歌《雪》の手で知られる鐘の音をあらわした三味線の合の手が、一オクターブ下げて用いられ、春先らしい雪の状景があらわされております。

本曲は、浦里時次郎で知られる新内節の《明烏夢泡雪》を題材にとった、いわゆる「明烏もの」です。〽義理という字は是非もなく」これは、新吉原山名屋の遊女浦里が、廓の亭主から雪の降る庭で激しい折檻を受けたのち、新内節〽昨日の花は今日の夢、今はわが身につまされて、義理という字は是非もなや」、と不運を嘆いているところに、春日屋の時次郎が塀を乗り越えてあらわれ、二人が手に手をとり落ちのびてゆくところになります。歌舞伎でもお馴染みの名場面です。

うた澤節の原作では、最後の一節に「夢かうつつか朝烏」となりますが、芝派の現行では「夢はうつつか朝烏」と唄い、夢であったことが強調されています。