歌詞の紹介

歌詞の紹介

《うぐひす》

《うぐひす》 本調子 〔季 仲冬を主に三冬〕

作曲:初代哥澤芝勢以(三代目哥澤芝金)

〽うぐひすの 笹啼き染める 小柴垣 色も香もある 愛嬌に 絆されて咲く 冬の梅 思ひの丈を 年わすれ 早く初音を 待つばかり

【補足】
ささなき:鶯の子が冬至頃おぼつかない聲でなくこと
色も香もある:外見・内面がともに備わっている。名実兼ね備わる。
初音:春になって鶯が初めて啼く聲
松竹梅の詠み込み:冬の梅、思ひの丈(竹)、待つ(松)ばかり

作曲者は、後に芝派哥澤節の三代目家元となる初代哥澤芝勢以(1840-1911)で、当流派の流祖である二世哥澤芝勢以の叔母にあたります。開曲は、明治七、八年頃に浅草須賀町の井生村楼で催された二代目哥澤芝金の名披露目といわれています。芸談によると「この時は非常なもので、横浜からもズッと遠くから芝金の腕を慕って来た人が何百と云ふ数で、楼上は透き間もない程でした」※1 と伝えられております。

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歌詞は、音に色、そして香りと、春の訪れを待ち遠しむ情景が歌われています。鶯は、春告鳥という当て字があるように、春の訪れを歌い知らせるので、日本人に古くから親しまれてきました。秋頃から、舌鼓のようなおぼつかない声で啼くのを笹啼きというように、その愛らしい鳴き声に絆されて梅が咲き、初春には鴬が「梅が枝」に訪れて、初音を奏でる。仲の良い間柄のことや調和して絵になるもののことを「梅に鶯」「竹に鶯」とも言います。また、たくましい生命、可憐さ、愛おしさがしっかり生きるような空間を思い起こす「冬の梅」、そして「思いの竹」「初音を松」と松竹梅が読み込まれており、ご祝儀曲として縁起が良く作られています。

小柴垣とは、嵯峨野の孟宗竹林にあるような丈の低い垣根のことです。特にクロモジの木で造った編み目の細かい柴垣は、鶯垣と呼ばれ、来客の時に予め湯をかけておくと高尚な香りを発散するので、茶席の庭などで用いられるようです。

冒頭の前弾(前奏)「チリリリリリリ・・・」は、時鳥を主題とした《ひと声》《時鳥今一声》にても用いられています。続く、「ツツチチチチンチン」は、比較的新しい作品である《今様君が代》(二世芝勢以作曲)にても同様のフレーズが使われています。そして、「チリリチテツトン」は、《花に啼く》《梅暦辰巳園》《濡衣松藤浪》といった明治初期に作られた古典曲に用いられる特徴を持つようです。

※1 哥澤芝土志「芝金派の師匠(其一)」『歌舞音曲』第二巻、7月、十六号、20頁。